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慰謝料と分割|慰謝料

慰謝料の分割支払いの法律問題について弁護士が解説しています。

Q 慰謝料について分割支払いの合意をする理由として、どのようなものがありますか?

相手に慰謝料を請求したいという場合に、相手に資産や収入がなければ、そもそも慰謝料の支払いを受けることができません。相手は、自分に支払える範囲の金額を超えると、なかなか合意してくれないものです。

そこで登場するのが、慰謝料の分割支払いの合意です。慰謝料の総額は高額であっても、分割払いにすれば、相手が支払える可能性があります。資力のない相手であっても、一部でもいいから確実に慰謝料を回収したいという場合に、分割支払いの合意は有効です。

また、刑事事件の加害者の立場の場合に、刑事処分が出るまでの間に、早期に被害者と示談を成立させれば、不起訴になることが少なくありません。加害者側の資力が乏しく、すぐに慰謝料全額のお金が準備できなくても、分割支払いの合意ができれば、被害者と示談を成立させることができます。うまく示談できれば、不起訴になる可能性が高まります。

慰謝料の分割支払いの合意をする理由 ●収入や財産などの資力のない相手から、一部でも早期に回収したい場合
●刑事事件の加害者が被害者との間で、早期に示談を成立させたい場合

Q 慰謝料の分割支払いの合意をする際に、注意すべき点はありますか?

慰謝料の分割支払いの合意をする際には、「期限の利益喪失特約」を必ず定めるようにしましょう。期限の利益喪失特約とは、分割金の支払いを怠ると、慰謝料の残額部分も含めて、支払い猶予の効果が消滅し、慰謝料の全額についてただちに支払う義務が発生する定めをいいます。

この特約があれば、相手に対し、「1回でも分割金の支払いを怠ると、一括で請求されてしまう」という心理的プレッシャーを与えることができ、回収可能性が高まります

また、慰謝料の分割支払いの合意をする形式として、公正証書を作成することが望ましいといえます。公正証書とは、公証人役場において、公証人が当事者の合意内容をもとに作成する書面です。

公証人という利害関係のない第三者が書面の作成に関与しますので、後日、合意内容が争われる可能性が低い点がメリットです。また、公正証書に「強制執行に服します」との執行受諾文言を入れておけば、分割金が支払われない場合でも、裁判を起こさずに強制執行することができる点は大きなメリットといえます。

なお、実際のケースでは、相手が公正証書の作成をためらう場合もあり、逆に示談が難しくなるという場合もありますので、事案に応じて、通常の示談書と公正証書とを使い分けることが必要です。

慰謝料の分割支払いの合意は、適切な形式と方法をとれば、非常に効果的な示談が可能ですが、一般の方が自力で適切な方法を選択することは困難な場合が多いため、一度、弁護士にご相談ください。

通常の示談書 ●手続が簡単で迅速に作成できる。
●作成の手数料がかからない。
●強制執行のためには裁判を起こす必要がある。
公正証書 ●公証人役場での作成が必要で、手続が比較的厳格。
●作成にあたって手数料が必要となる。
●合意内容を後日争われる可能性が低い。
●執行受諾文言があれば、裁判を経ずに強制執行することができる。

Q 分割払いの合意をするより、裁判をしたほうが一括で回収できるので望ましいのではないですか?

慰謝料について、分割支払いにしか応じない相手に対しては、断固たる姿勢で一括払いを求めて裁判を起こすという方法も、一つの選択肢です。しかし、一括払いを拒否している相手に対して、裁判で勝訴したとしても、任意でお金が支払われない限りは、回収のために強制執行手続をとる必要があります。

相手に資力があり、預貯金口座の情報や、その他の財産に関する情報があれば、強制執行で取り立てることはできますが、個人を相手とする場合には、強制執行で回収することは意外に難しい場合が多いです。最も簡便かつ迅速に回収する方法としては、強制執行よりも任意での支払いを受けられるよう誘導することが適切な場合が多いといえます。

そのため、相手が分割払いであれば応じるという姿勢を見せている場合には、分割払いの期間や分割金の額にもよりますが、許容できる範囲で分割払いの合意をしたほうが、結果的に回収額が多くなるということは少なくありません。

また、たとえば不倫の慰謝料であれば、150万円~200万円程度しか裁判では認められませんが、裁判外で分割払いの合意をすれば、裁判基準を上回る慰謝料の合意をすることも可能です。